ベートーベンでサヨナキドリの声を確かめること

 村上春樹の新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」に登場する、親鳥が子に鳴き方をおしえるノルウエーの鳥はヤブサヨナキドリだ、と前に推測した。
 
 いい声をしているけれど、カッコーとかホーホケキョとか、簡単に、カタカナ表現できない色々な鳴き方をする。仲間のサヨナキドリ=ナイチンゲールも同様だ。
 
 チョチョチョチョチョといった声がまじるのがわかる程度。美しい声の代表とされるが、日本で生息していないので鳴き声のなじみはうすい。
 
 ベートーヴェン交響曲6番「田園」の第2楽章「小川のほとりの情景」の終わりに、3種類の鳥の鳴き声を登場させている。
 カッコウ、ウズラ、そしてサヨナキドリ。1801年作曲当時のウィーン郊外の田園風景とされる。
 
 「第2楽章の終わりで、カッコウ、サヨナキドリ、ウズラの鳴き声を楽器で表現していて、だれが聞いてもそれとわかりますが、単なる模倣ではなく音楽的に大変優れた表現になっています」と桜谷保之さんが「『田園』(ベートーヴェン作曲 交響曲第6番)における生物多様性」(2012年、近畿大学農学部紀要45)で、かいている。こういう論文は楽しい。
 
「一般に野鳥には繁殖期のさえずりと冬季などの地鳴きとがあります。第2楽章の3種類の野鳥の鳴き声は明らかにさえずりとわかります。大部分の野鳥は繁殖期の春から初夏にさえずりますから、この『田園』は季節的には初夏の田園を表現していることは間違いありません」
 
 さて、鳴き声。カッコウはわかる。ウズラはどうか。日本でも江戸時代に武家がウズラの鳴き声を楽しんだのだそうだ。鶉用の鳥かご、「鶉籠」なるものもある。
 
 鳴き声は「御吉兆」=ゴキッチョウと、きこえたので、縁起がよいとされた。しかし、日本のウズラはJAPANESE QUAIL。「田園」のものはCOMMON QUAIL=ヨーロッパウズラ。鳴声がちがう。AVIBASEできいてみると、ウィウィッ、とか、ウィウィウィとかにきこえる。
 
 「田園」では、カッコウクラリネットで、ウズラは、オーボエ、サヨナキドリは、フルートで演奏される。ベートーヴェンは作曲当時、聴覚が失われていたようなので、「記憶で、作曲したのにちがいなのですが、各野鳥のさえずりを見事に音楽にしています」と桜谷さん。
 
 週末には、「田園」をじっくり聴きたくなる。