魚屋で、「三重・平鯛」と書かれた店のお勧めの魚を買った。店のお兄さんが「下ろしましょうか」というので、「このままで結構。うちで三枚におろしますから」と、太った一尾を選んだ。
鱗取で鱗を取り、包丁で取り残しを探す。腹に切れ目を入れ、腸を取り、頭を落とす。三枚におろした切り身は、骨抜きで小骨を抜き、抜き残しがないか指で確認し、布巾で覆い、上から熱湯を注ぎ、すぐ氷水に入れて〆、霜皮作りにした。頭はさらにぶち切って潮汁を作った。
別に親子丼を作って、刺身とアラ汁で、休日の夕餉とした。
細は、「刺身は上々だが、小骨が残っている。アラ汁と親子丼はよくできました」という。料理修業中なのだ。
私は、平鯛がなんであるか調べ、三重のどこの漁場で獲れたのか想像してみた。
平鯛はヘダイ、マナジなどとも呼ばれ、秋から春にかけて、とりわけうまいのだという。タイの仲間にしては値段が安い。消費者に名が知られていないので需要が少ないためらしい。
三重の漁場はおそらく、熊野灘だろうと想像してみた。那智の滝や熊野三山をはるかに望む熊野灘で泳いでいた一尾と、近所の魚屋で偶然出会い、食べたのだと。
押し入れから出てきた猫に、骨からこそげとった身をあげたが、食べなかったので、冷蔵庫に入れて、翌朝私が食べた。脂が乗ってさっぱりして、クセのないいい魚だと思った。