やっぱりね、トビはトビでなかった

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 遊びせんとや生まれけむ、の「梁塵秘抄」の374番の雑首に、こんなのがあった。
 
 勝れて速きもの、鷂(はいたか) 隼 手なる鷹、瀧の水、山より落ち来る柴車、三所五所に申す言。
 
 意訳すると、この世でひときわ速いのは、ハイタカという鷹、ハヤブサ、手に止まる鷹狩りの鷹、滝の落水、山から落とす円く括った柴の枝。熊野の三所権現、(伊豆箱根を加えた)五所権現への願いごとも、忽ちのうちに速く叶いますよ。
 
 ハヤブサより先に、速く飛ぶ鷹として、「ハイタカ」が、平安時代認識されていたことが分かるし、鷹狩りの鷹(オオタカクマタカなどだろう)とは、別格にされていることが分かる。
  梁塵秘抄は、平安末の1180年前後、今様歌謡を、後白河法皇が編集したものとされる。
 
 8世紀初めに書かれた日本書紀では「鵄」=「鷂」が、トビと読まされ、トビとハイタカが、混沌としていたが、12世紀末にもなると、秀鷹としてハイタカが、はっきり分別されているんだ、なんて思っていたところ、先日、神保町の東方書店天狗はどこから来たか」という本を見つけ、トビとハイタカ別の知見を得た。
 著者の杉原たく哉氏によると、平安末期に 登場した天狗の姿は、口が嘴になり背中に翼をつけた半鳥半人となっていて、鳥は「トビ」とされている。
しかしだ。「この当時の『トビ』は、いまのトビ(トンビ)をさすのではなく、ノスリチョウゲンボウなどの中型猛禽類に当てられた言葉であると、古典文学の注釈などには書かれている」
 
 なんだ、トビは中世には、今のトビではなかった、というのが定説なのか。
 さらに、杉原さんは、14世紀の「是害房絵」天狗の絵を紹介し、天狗の肩羽や尾羽にははっきりとした横斑が何本も入っており、『トビ』とは明らかに異なる。こうした横斑は、オウタカやハイタカなどの他の猛禽類に見られるものである」
 
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 ますます、日本書紀の神武東征の、金鵄のトビが、トビなのか、あやしくなってくるではないか。
 
(続く)