遊びせんとや生まれけむ、の「梁塵秘抄」の374番の雑首に、こんなのがあった。
勝れて速きもの、鷂(はいたか) 隼 手なる鷹、瀧の水、山より落ち来る柴車、三所五所に申す言。
意訳すると、この世でひときわ速いのは、ハイタカという鷹、ハヤブサ、手に止まる鷹狩りの鷹、滝の落水、山から落とす円く括った柴の枝。熊野の三所権現、(伊豆箱根を加えた)五所権現への願いごとも、忽ちのうちに速く叶いますよ。
8世紀初めに書かれた日本書紀では「鵄」=「鷂」が、トビと読まされ、トビとハイタカが、混沌としていたが、12世紀末にもなると、秀鷹としてハイタカが、はっきり分別されているんだ、なんて思っていたところ、先日、神保町の東方書店で「天狗はどこから来たか」という本を見つけ、トビとハイタカの別の知見を得た。
なんだ、トビは中世には、今のトビではなかった、というのが定説なのか。
さらに、杉原さんは、14世紀の「是害房絵」天狗の絵を紹介し、「天狗の肩羽や尾羽にははっきりとした横斑が何本も入っており、『トビ』とは明らかに異なる。こうした横斑は、オウタカやハイタカなどの他の猛禽類に見られるものである」
ますます、日本書紀の神武東征の、金鵄のトビが、トビなのか、あやしくなってくるではないか。
(続く)