対馬の情熱家と久米島の海水温度差発電

 沖縄・久米島で、海水温度差発電の第一歩が踏み出された。 沖縄タイムズが127日付で報じた。
 
 県が県海洋深層水研究所(久米島町)で2012年度、海水の温度差を利用して電力を生み出す「海洋温度差発電(OTEC)」の100キロワット級発電プラントを設置し、実証試験を始めることが26日、分かった。県によると商用化を想定した実際の海域での実証試験は世界初という。
 
 海洋温度差発電は、表層の比較的温かい海水で沸点が低いアンモニアなどを蒸発させてタービンを回した後、深層の冷たい海水で再び液体に戻す仕組み。
 県の計画は、国内最大の深層海水取水設備がある久米島の研究所に発電プラントを設置し、連続運転する。今春から、プラント建設に当たる企業の公募や設計を始め、13年初頭にプラントを設置し、1年間の連続運転に入りたい考え。2月の県議会に予算案を提出する。
  
 海水温度差発電は、佐賀大学元学長の上原春男というエネルギッシュな名物学者が発明した「ウエハラサイクル」を利用したものらしい。
  上原氏は、一般向きに多くの著書を出しているので、「夢をかなえる心の法則―ある科学者の伝記」を読んでみた。
  地球には、太陽からの莫大なエネルギーが蓄積されている。石炭、石油。 しかし、一番簡単に手に入り、大量にあるのが、大海原の温かい海水。 太陽光の届かない、低温度の深層海流との温度差を利用して発電しよう、 と海水温度差発電が生まれた。
 
 上原氏は、今までなかったプレート式の熱交換器を考案し、さらに、水でなく、アンモニアを蒸発してタービンを回すシステムを発明した。学会で発表すると、その場で悪罵を浴びせられ、旧帝大系の学者のボスのイジメにあい、援助を求めても、省庁にも全く相手にされなくなったという。
  そのとき、ただ一人関心を持って助けてくれたのが、役人時代の作家・堺屋太一だった、 といったエピソードを書いている。
 
  上原氏は、対馬の豆酘(つづ)瀬の出身だった。ちょうど、黒田智「対馬はなぜ円く描かれるか」を読んでいたところで、天道信仰の聖地の豆酘で生まれたのか、と驚いた。上原さんは、少年時代に、あわび漁の海女たちと、磯で談笑し、医者がいないので、坊や、勉強して医者になってくれと、頼まれたという。医者を目指したものの、医学部に合格できず、学者、そしてプロジェクト推進者となった。
 
  沖縄は、晴れ日が少なく、太陽光発電に余り向かないと聞いている。深層水採取の基地のある久米島で、深層水を活用した発電事業が始まることは、明るい話だと思う。