下館にサケの遡上を見に行く

 モンゴルで釣りをしたことがあるが、カワヒメマスの釣りだったのであまり自慢できない。 開高健氏のような豪快なトル(イトウ)釣りが、モンゴルでの釣りの醍醐味なのだろう。
 欧州の旅行者がトルを釣り上げるのを見たが、確かに大魚だった。サケは、はるかな海から、ユーラシアの高原まで遡上してくる。海には帰れなくなった陸封のサケもいるが、モンゴルは北極海、太平洋と川で繋がっているのだ。
 
 きょう、茨城の下館までドライブした。勤行川に、サケが遡上したというので、様子を見に来たのだ。
 川べりを歩いていると、三角の背びれを出してサケが遡上している。産卵を終えたのか、命尽きて浮いているサケもあちこちにいる。
 遡上しやすそうな堰、難しいそうな堰とあって、細と仙在大橋あたりで、2段構えの長い堰を眺めた。
 「ここは無理じゃないの、上がれそうな箇所が狭いもの」
 「あの狭い箇所が、サケにはわかっているんじゃないかな」
  我々のいい加減な予想を裏切って、サケはその難しそうに見えた急坂を越え、なおも続く難関を全身をぶるぶる震わせながら上がっていくではないか。
 「がんばれ、がんばれ」と声を出してしまった。
 
 観察していると、堰の前にサケの魚影が濃く、じっとしているのやら、下流へ一度戻ってまた上がってくるのやら、堰越えに向けて調整しているように見えた。
 
  勤行川で放流された稚魚は、太平洋に出て、アラスカ、カナダの海域を経て、4年後遡って故郷に帰ってくるという。川の旅も長い。銚子の利根川河口から、香取、木下、 利根町を過ぎたあたりで狭い支流の小貝川に入り、間宮林蔵の墓を横目に、藤代、水海道、つくば、下妻を経て、さらに狭い支流、勤行(五行)川を上ってくる。
 
 鯉にも、大河を遡上する鯉の滝のぼりの話がある。竜門を越えると、鯉は龍に変身する。いわゆる登竜門で、門の先には明るい将来が待っている。
 
 鯉と違ってサケは、苦労して遡上して産卵して、そこで生涯が尽きてしまうのだった。
 あらためて、放流されたサケの生涯を思った。大海での長い旅の後、放流地へ帰還する本能による苛酷な遡上。(あんまり、上流で放流するのは可哀そうではないか)サケたちの最後の踏ん張りを見て、ささやかながら応援ができてよかったか。
  
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