波上風景

 沖縄生まれの2人の親友は、ともに、泳げない。
 沖縄は海流が激しい。子供のころから、海は怖いところ、と刷り込まれたという。
 
 悪い事をすると、糸満売りする、と親に脅かされたことも、心理的に影響しているらしい。追い込み漁のため、糸満漁師に、売られた子供たちが、海深く潜る話は、那覇で育った2人には恐ろしかった。
 
 2人が、子供のころに泳いだのが、那覇の海水浴場、波上(なんみん、今は波ノ上ビーチという)。慶良間や、コマカ島で泳いだ後では、沖にネットが張られ、随分こじんまりした海水浴場は、つまらなく見える。
 
 それでも、2人は、波上の海が怖かったという。
 
 山之口貘さんの詩に「耳と波上風景」というのがあって、次のように閉じる。
 
ぼくは少年のころ
耳をわずらったのだが
あのころは波上に通って
泳いだりもぐったりしたからなのだ
いまでも風邪をひいたりすると
わんわん鳴り出す
おもい出の耳なのだ
 
 詩人も少年時代、波上で、泳いだのだった。
 
 さて、東京住まいの親友の一人は、体調を崩してしまい、会って話すこともままならない。今日、娘さんと会ったら、沖縄産のシーカーサーの育毛剤を下さった。柑橘系でスガスガしい。
 
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