秩父の観音霊場の札所で、裏の岩山を家族でひーひー言いながら、登ったことがある。修験者たちの修行の名残を感じさせる、ちょっとしたロッククライミング体験だった。
降りた後、境内を散策したが、庫裡の玄関に「立春大吉」の札が貼られていた。曹洞宗寺院もこの札を貼るのだ、とカメラに収めた。
節分の翌日が立春。
節分に「鬼は外」と豆をまかれ、家を追い出された鬼たちが、翌日の立春に家に戻ろうとしても、玄関に新しい「立春大吉」の札が貼ってあれば、入って来られないという代物だ。
「立春大吉」の文字は、4つの漢字とも左右対称なので、表から見ても裏から見ても「立春大吉」。鬼が玄関に貼られたこの符を見ると、入口なのか、出口なのか混乱して、結局入って来られないらしい。
豆まきと立春大吉は、セットで初めて効果があるということになる。
もうひとつ、気になることがある。
長野県の松本市の周辺に豆まきと関連した、初雷の年中行事があることだ。
「節分の豆は初雷の日に出して食べる、何の故かわからぬ雷除のまじなひらしい」(「郷土研究」2巻2号、大正3年)。
初雷は、立春の後、初めて鳴る雷のことをいう。はつがみなり、とも、はつらい、とも呼ぶ。
おそらく、家から出て行った鬼が空で騒ぎ出すのが、初雷なのだろう。
初雷のごろごろと二度鳴りしかな 河東碧梧桐
初雷の二つばかりで止みにけり 正岡子規
長い雷鳴でなく、1、2回きりのあっさりとした雷のようだ。
節分の豆を食べれば、鬼が騒いで起こす雷除けになる、ということならば、
今年は我が家でも
2月2日の節分に豆まき、
豆は取っておいて、初雷の時にまた食べる。
この3点セットで鬼退治しようかと思う。