未明に地震があって、目をさました。
震源地が千葉東北部と知って、ああ、要石の鹿島神宮の傍か、地震の巣だからな、と思いまた眠った。
家族で鹿島神宮にお参りに行ったことがある。元旦が仕事だったので、年末に休暇を取って、鹿島神宮には大みそかに訪ねたのだった。境内は露店の準備やらで落ち着かず、大みそかに神社詣でに行くものではないと思った。鹿島神の使いとされる鹿がいるのを確認し、少しだけ頭が出ている要石を観察した。
要石については、民族学者の大林太良氏が書いている。
鹿島神宮の要石は、「世界魚が動くと地震が起こる」という世界的な地震伝承の一つのバリュエーション。「地下に大きな魚(ふつうは鯰だという)がいて、日本をとり巻いていた、そして頭としっぽがこの地で出会っていたのを鹿島明神がその頭としっぽを釘づけにして貫いて動けないようにした、この石がその釘づけにした釘で、地中にある長さはとうていはかることはできない、非常に奥深くまで石がいっていると伝えられている」(大林太良「神話の話」)
ナマズを封じる要石伝説は、沼津、輪島、平田など各地にある。ナマズの頭と尾が重なったとされる場所では、当然地震も多かったのだろうと想像する。
私が興味を持つのは、地面と地下の魚を結ぶ一本の柱のイメージだ。
大林氏によると、地震伝説には、世界魚、龍蛇が動いて地震が起こすもののほかに、縛られた地下の巨人が動いて地震を起こすもの、先祖などが世界柱、紐を動かして地震が起こすタイプなどがあるという。
最後の、世界柱はミンダナオのマノボ族の神話に出てくる。先祖が一本の天柱を立て、大蛇を飼ってそこに住んだ。中心柱の傍に数本の柱を立て、住民がなにか不快なことを行うと、先祖は柱を揺する。すると大地震が起きる。(天柱とあるが、地下と地上を結ぶ柱ではないか)。
アフリカのニアサ湖のアトンガ族は、神が地上の人間が生きているか調べるため地震を起こすと考えている。地鳴りが聞こえると、住民は「はい、はい」と大声で答え、慌てて杵で臼をついたという。
地下から地上への合図で思い浮かぶのが、藤原鎌足の鳴動伝承だ。鎌足を祀る談山神社の奈良県多武峰に、御破裂山がある。昌泰元年(898)、藤原鎌足の神像が破裂したのをきっかけに、天下に変事あるごとに御破裂山が鳴動し、鎌足公が警告をしていると、住民が恐れたという。
東から鳴動すればとがめは国王、
南ならば大官、
北ならば氏人、
西は万民、
中心ならば本山(多武峰)
以上は栢木喜一「飛鳥と多武峰」(「飛鳥の民俗」昭和62年、飛鳥民俗調査会)参考。
地下の中心柱に住む鎌足が、周りに立てた柱を選んで揺さぶり、地鳴りを起こして合図を送っているかのようだ。東の柱ならば国王、西の柱ならば民衆が悪いと。慶長年間でも、多武峰の地鳴りで、大騒ぎになったことが伝わっている。
さて、藤原鎌足は、平安時代後期の「大鏡」では、常陸国鹿島出生とされている。また、藤原家の氏神は鹿島神宮の鹿島神(武甕槌命)で、奈良の春日大社は、鹿島神を主祭神としている。鎌足と鹿島の関係は大変深いのだ。
地上から地下に打ち込まれた要石。地下から地上へ柱を通じて鳴動する御破裂山と、鎌足を媒介にして似たような世界観を感じる。鹿島近くの地震を機にちょっとメモしてみた。