戦時下の文学者や芭蕉のことやらで頭が一杯になったので、ちょっと休憩。猫の本に目を通す。
英国ウエストサセックス州の街ゴリン=バイ=シーの古本店から届いた、尻尾のない猫のマンクスについての本「A DE-TAILED ACCOUNT OF MANX CATS」だ。
英国マン島に住むMANX猫を考察した、著者SARA GOODWINSの楽しい本だ。
大ブリテン島とアイルランド島の間、アイリッシュ海に位置するマン島は、独自の歴史と文化伝統を持ち、英国領でなく、自治権をもつ英王室属領として、そもそもEUにも加盟していなかった。
その島で育ったMANX猫は、猫にしては珍しく泳ぎが得意で、犬の様に人懐っこく、前足より後ろ足が長く跳躍力もあり、狩猟能力の高い猫として知られてきた。そして、なにより尻尾がない。
マンクスは、「ship’s cats」=船の守り猫として、船乗りたちに人気だったと今回知った。
ship’s catsのことも知らなかった。大航海時代から、船乗りたちは、自分たちの食糧を狙う鼠に困っていたため、鼠を退治する狩猟能力の高い猫を乗船させてきたのだという。船乗りの仲間として猫を敬い、航海の幸運をもたらすものと考えてきた。
ただ、海軍兵士の間では、航海中に嵐が起きるのは、猫が尻尾に潜む魔法を使ったためだと信じられていた。猫はありがたいが、恐ろしい尻尾を持っていると。そこで、注目されたのが、マンクスだった。
尾がないから、嵐を呼ぶ力がない。
商船ばかりでなく、王立海軍も公務として正式にマンクス猫を乗船させたのだという。機雷敷設艦HMS MANXMANの例が挙げられていた。
王立ヨットのブリタニア号に乗船していたマンクス猫は、エリザベス王太后が表敬した際に、王太后に贈呈された。
いまでは、船上の猫のことを聞かなくなった。1975年に新しい検疫の法律ができて、世界の港での動物の出入りが厳しくなり、Ship Catは消えてしまったのだという。
ソファの背の上で丸くなった我が家の猫をじっと眺めてみると、尻尾が長いなあ、と改めて思う。この尻尾に嵐を呼ぶ魔法が隠されている?