仙厓と菅木志雄


 しばらくサボっていたジムの帰り、玄関脇に立てかけられているチラシに目が行った。菅木志雄の名前があった。

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 チラシは、古典×現代2020という企画展。来年3月と開催は先だった。古典作品と現代作家とを組み合わせて展示して、両者の親和性を楽しもうということらしい。

 

 曽我蕭白横尾忠則。狂気を秘めている両作家の類似性。

 尾形乾山皆川明。色鮮やかさで、皆川のファッションデザインと共通点。

 円空=棚田康司。仏像、少年少女像と題材は違うが、ともに一木彫彫刻家。

 

 菅木志雄は、なんと禅僧仙厓義梵と組み合わされていた。仙厓和尚(1750-1837)については、猫の絵「南泉斬猫画賛」やら、福岡の石村萬盛堂の「仙厓もなか」など、取り上げてきた。

はっきりいって、へたうまであるが、「あの月が落ちたらやろう 取って行け」といった和尚の言葉同様、人を食った味わいがある。〇を描いた、「円相図」など遊び心も感じさせる禅僧の筆墨。それと、材木や石を用いた「もの派」作家・菅作品のシンプルで明快でありながら、どこか深遠なことを感じさせる点が似ている、とされたのだろう。

 いよいよ禅味の立体作家として評価されるようになったわけで、それはそれでいいことのように思える。

 

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 自分としては、2年前板室温泉で出くわした、推理作家・菅木志雄の「双天のゴライアス」(2015)以来、菅の推理小説に興味を持ったので、新作が読みたい。

「渡海鳴鳥」(2000年)、「樹下草怨」(2008年)は探し求めて読んだ。

 

 双天のゴライアス=蝶の収集家の死

 渡海鳴鳥=渡り鳥研究者をめぐる殺人

 樹下草怨=土佐犬バイヤーの死

 

いずれも、なにかにのめり込んでいる人たちの特殊な社会での事件。南方の蝶、渡り鳥、土佐犬と、伊豆の刑事の聞き込み捜査を通して、収集家、調査研究者、鑑定家・バイヤーの知られていない世界をのぞかせてくれる面白さがある。

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「樹下草怨」では、さらに事件解決のカギとして、民俗習俗「犬卒塔婆」が出てきたりする。いぬそとばは、木の枝を削ったY字型の卒塔婆で、犬などの動物供養のために、村の境界、墓地周辺、川べりに挿し込むのだという。実際は、安産祈願などのためらしいが、利根川流域に限られた地域で行われているそうだ。

 

 読み通すのに、時間がかかるが、特殊な専門領域の話が出てくるので、新作が読みたくなる。相当取材をしないと書けないだろうから、数年先を覚悟しないとだめか。

 

 推理小説に伺える、作家の好奇心の強さは、仙厓とは少し違う点であると思う。