ヨーロッパコマドリの胸の赤は

 血の滴が、かの人の顔の高貴な造作に沿って、したたり流れた。
 
 Droplets were TRICKLING DOWN along the noble features of HIS face.
 
 トリクリング ダウン。 トリクル ダウンは、こんな風に使われていた。
 
 十字架にはりつけにされ、茨の冠を被せられたゴルゴダの丘イエス・キリストの額から、血が滴り落ちる光景―。
 米国のローマカトリックフランシスコ会の雑誌に、この様にキリストの様子が描かれていた。
 
 この光景を哀れに思った一羽の鳥は、イエスとは知らず、額に刺さった茨を、くちばしで必死に抜こうとする。抜いたとき、血が飛び散り、鳥の灰色の胸が赤く染まった。鳥は、羽を洗っても色が消えず、どうしたわけか、新たに生れてくる子孫の胸毛にも、ルビーのような赤い輝きがあった。
 
 灰色の身体に、赤い胸毛。ヨーロッパコマドリ=ROBIN REDBREASTの、赤い胸毛の由来は、各地域で変容しながらも、キリスト伝説に結びついているのだった。赤い色は、キリストの血であると。
 
 「ニルスのふしぎな旅」の作者、スウェーデンの女流作家セルマ・ラーゲルレーヴ(1858-1940)の「キリスト伝説集」(岩波文庫)を読んでいたら、このヨーロッパコマドリの話が出てきた。
 鳥の名は、「ムネアカ」と訳されていて(翻訳イシガ オサム)、やはり胸の赤はキリストの血。スウェーデンにも定着している説話だった。
 
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 ROBINが愛されるわけは、こういうことだったのか。
 取り寄せた英国の木版画家トマス・ビューイック(1858-1940)の「ビューイックの英国の鳥」の表紙にも、ヨーロッパコマドリが選ばれていた。
  2015年には、国民投票で、英国の国鳥となっていた。