ミソサザイを語り部に選んだキプリング

 語り部としてのヤツガシラ。
 あらためて、世界の鳥のWEB検索、AVIBASEで、ヤツガシラの鳴声を確認すると、ホ、ホ、ホ(間)ホ、ホ、ホと3連音繰り返す単調なものだった。
 それでもまあ、とつとつと語るようにおもえないこともない。
 
 英作家ラドヤード・キップリング(1865-1936)の作品「ジャングルブック」(1894)に、鳥の語り部が出てくるのを思い出した。ミソサザイだ。同書に収録された「白海」で、勇敢なベーリング海の白あざらしの物語を小鳥が話す設定になっている。

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これからお話しすることは幾年か前にずっとずっと向ふのベイリング海にあるセント・ポールの島の北東岬、ノヴァストシアと呼ばれる所で起つたことです。鷦鷯(みそさざい)のリンマシンが日本行の汽船の索具(つな)に吹きつけられた時にこの話を私に話してくれたのです。そして私は彼を船室に連れて行って二日間暖めて食物をやつたので、彼は再びセント・ポールの島に飛び帰ることが出来るやうになりました。リンシマンは大層妙な小さな鳥です。けれども彼は如何にして真実(まこと)を語るかを知つてゐるのです」(中村為治訳)
 
 太平洋航路でシアトルから横浜に向う船に、ミソサザイが北風に吹きつけられて止まりにきた。そのミソサザイ(リンシマンという名も付けている)から話を聞いた、というわけだ。
 
 日本にも生息し、記紀神話にもその名が登場する本当に体の小さなミソサザイは、けなげにも極寒の島にも生息しているのだった。
 
 声を確かめると、チチチチチのほか、巻き舌でジジジジジと小刻みに震わす音色もあって、バラエティに飛んだ鳴声の持ち主であることがわかる。
 キップリングが、ベーリング海のすさんだ島から仲間を脱出させて、南方の楽園へ引き連れてゆく白アザラシの英雄譚を語るにふさわしい鳥、として選んだわけだと思わせる。
 
 英領インドで生まれたキプリングは、ダーウィンから始まり、BBCのアッテンボローへと続く世界に冠たる英国の動物学の流れの中で、再評価されるべき存在なのだと思う。猫好きの作曲家ベラ・バルトークも、「ジャングルブック」を愛読していたー。

(キプリングの挿絵は、父のジョン・ロックウッド・キプリングが描いた。英領インドで美術の先生や館長を勤めた)