この鳥はなんなのだろう。スチュワートさんにすすめられて、ポートワインを飲むようになった。英国で育ったスチュワートさんは、父親がポートワインを愛し、ワインセラーに沢山の種類を貯蔵していたという。家族でこの甘いワインを、食後に嗜んだそうだ。
スチュワートさんのすすめもあって、近所で手に入るポートワインを飲むようになった。数種あるうち、ラベルに鳥が印刷されたものがあった。ポルトガル北部のドウロ地方のポートワイン「フェレイラ」Ferreiraだ。
何の鳥なのか、気になった。探索の結果「レア」の一種「ダーウィンレア」(Lesser rhea)という南米の走鳥だと分かった。1メートルもの背丈がある大型の鳥で、大きな翼があるのに飛ぶことができない。その代わり、走りがすごい。時速60㌔のスピードを出すという。YOU TUBEの投稿動画を見ると、ダチョウを優雅にした雰囲気だ。
アルゼンチン、ブラジル、ボリビアなどに棲息しているが、ポルトガルにはいない。おそらく16世紀から始まった南米植民地化の過程で、ポルトガルにも知識がもたらされたのだろう。優雅な姿で、しかも地を離れない(飛ばない)ことから、1752年ドイツの生物学者ポール・メーリングは、ギリシャ神話の「大地」の女神(ゼウスの母)「レア」の名をこの鳥に名づけた。この鳥の風格は女神にふさわしいと思ったのだろう。
ポートワイン「フェレイラ」のトレードマークに、陸鳥レアが選ばれたのは、ドウロ地方のブドウ栽培を改良し、ワイン産業を発展させた女性経営者アントニア・フェレイラDona Antonia Adelaide Ferreira(1811-1896)を、「ダーウィンレア」に例えたからだった。「とてもエレガントな飛べない鳥だが、決して後ろに引かない」この鳥の特徴が、女傑さながらだったようだ。この女性はポルトガルのTVシリーズの主人公になったり、よく知られる人物という。
アントニアは、英国留学してブドウ栽培の勉強をし直し、ポートワインの輸出をめざし、英国が主要な取引国となって、ドウロ渓谷産のワインの輸出量拡大に貢献したという。
スチュワートさんの父親がポートワインの愛好者になった背景には、英国でのポートワイン人気を築いたこの女傑のアントニアの活躍があったからだった、とダーウィンレアの絵を眺め直してみた。