ロボロフスキーの中央アジアへの1893年の探検記は残っているが、ロシア語なので読みこなせない。ほんの一部、英訳されているものがあった。
トルグート(モンゴル系オイラトの一部族)の住むユルドゥズ草原を通過した時の様子を伝えている箇所だ。
「トルグートたちは、私たちの到着に驚いた。トゥンガン(東干、回族)商人以外に訪問者がいないからだ。ひとりのキルギス人が我々を案内したことに気づいて、お前はどうしてここに来る道を知っているのか、と問いただしに来た。
『お前は前にも馬泥棒に来たに違いない。だからお前はロシア人を連れてきたのだ』
日が暮れる前、キルギス人は身を隠したい、ここから離れたいと頼んできた。北方へ一晩かけて行ける所まで行き休息するつもりだという。真っ暗になるとすぐ許可を出した。しっかり、自分の疲れた馬をトルグートの元気な馬に乗り換えて出て行ったようだった」
というのもー。
「ユルドゥズ大草原は、側対歩の馬(pacing horse)で広く知られていた。トルグート人は馬を誇りにしていた」
側対歩というのは、馬の歩き方で、右前脚とともに右後足が出、左前脚と一緒に左後足が出る。速く走ることもでき、少ない上下動で水平に進むという長所がある。
特に、戦さでは、馬上で弓を正確に射ることができ、ユーラシアの騎馬民ばかりか、日本でも武家の間で重宝された。
「トルグートにやってくる東干商人のお目当ては、側対歩の馬だった。中国商人に転売してもうけるのだ。生まれつきの側対歩の馬、身体の大きな側対歩の馬はとくに高値がつき、中国人の馬の専門家のもとに運ばれた」
ロボロフスキーの、中央アジア探検の記録は興味深い。トルグート人の育てる馬についてだけでも、興味深い記述を残している。ロボロフスキーが新種のハムスターと、どんな風に出会ったのか、探検記で知りたいところだ。ロシア語に堪能なハムスター好きに、ぜひ調べていただきたい。