素手で動物を救け上げる話

 夏のイルクーツクには1度だけ、旅行したことがある。

 

 先週17日、モスクワ・タイムズの電子版に、イルクーツクで氷の穴に落ちたイノシシ3匹を猟師が素手で助け上げた、というニュースが動画とともに掲載されていた。TVネットワークの「360゜」が、最初に紹介したらしい(投稿映像だろう)。
 
 うさぎ狩りのハンターが、遠くに氷が割れてできた水の穴に動物がもがいているのを見つけ近づく。イノシシが動き回って、池だか川だかの氷が割れ水中に落ちたらしい。
 
 ハンターは、片手で一匹目の右耳を掴んでひょいと引っ張り上げる。二匹目は、両手を使い両耳を掴んで脱出させた。三匹目は、噛むなど抵抗して手古摺っている処で、画面が途絶えた。記事によると、三匹目も救い出し、みな森の中に逃げて行ったという。
 
 さすがに、動物に手慣れた猟師だと感心した。いのししを掴むときは、「耳」なのか、と興味深かったのだが、記事は「素手で助けた」ことが見出しのメーンになっていた。
 イルクーツクの気温を検索すると、1月17日のイルクーツクの最高気温マイナス18.1℃、最低気温マイナス22.0℃だった。ロシアの全国ニュースになったのは、救助もさることながら、「素手」という処がポイントだったようだ。
 
 なにか、動物を救い出す凄い話があったはずと思い返したら、京都で著名な考古学者の母親が、肥溜めに落ちた飼い犬を救い上げた話だった。
 大正時代の京都の話。日本中の畑には野菜の肥料として、人の排せつ物を溜めた穴があった。戦後になっても、子供が落ちて亡くなったニュースがよく報道された。その女性は、通りがかり、近所の畑の肥溜めに落ちていた愛犬を発見。早く助けようと方法を探したが、うまくいかない。
 おそらく、木きれや、紐などを使って助けようとしたのだろう。「百計つきて手で掴み上げた」という。肥溜めに両手を突っ込んで、抱え込んで犬を助け出したのだった。
 
「犬の子のかわいさと老人の至情が顕れている」と、浜田青陵が「犬雑筆」(東洋文庫百済観音』)でこのエピソードを書いている。
 
「犬雑筆」によると、大切にされた犬は、その後、突然いなくなってしまった。
「よく似た犬を吉田山で見たという人があったので、私の家におったO君がわざわざ探しに行かれたのも優しい。今日か明日かと帰って来る日を待つとはなしに待っておったが、とうとう影をみせなかった。『モーかわいそうだから犬は一生飼うまい』といっているうちに、いまの二代目エスの時代になった」と記している。