猫の帰巣本能あれこれ

 我が家の猫は家猫。外に出るのは、猫の病院に連れてゆくときぐらい。車の窓から、不安そうに外の流れゆく景色をみつめている。往復ずっと、真剣に外をみているのは、道を覚えようとしているかのようだ。どこかで放されても、帰ることができるように目に景色を焼き付けている、そんな風にみえる。

 帰途、駐車場に近づくと、もうわかった、と安心した様子に変わる。嗅覚とかではなく、猫にとっての視覚の役割の大きさを感じる。
 
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 夏目漱石の名無しの飼猫は、一家が千駄木(向丘2丁目)の家から、西片町(西片1丁目)へ引っ越した時、千駄木の元の家に帰ってしまうことがあった、と夏目伸六が「父・夏目漱石」でかいている。千駄木方面に向かう猫を、漱石がたびたび道で発見し、捕まえようとしたことがあった。
「此間も道であいつが小便をたれて居る処をうまくとっつかまえて連れて戻った。やっぱし旧の家というものは恋しいものかな」
漱石は言っている。
 
「大体、猫と云う動物は、人になつくと云うより、寧ろ家になじむと云われて居るが、たしかにこの猫も、引っ越した当座は、ちょくちょく旧宅へ帰還を洒落こむ事があった」と伸六氏。
 
 GOOGLE ストリートビューで西片の新居から、向丘の旧居までたどってみた。狭い道を曲がりながら、本郷通りを横切ってなおも進む。猫が歩いた明治39年ごろの、本郷通りは、自動車でなく、人力車、荷馬車が行きかう、のんびりした光景だったろうが、新居から旧家まで、結構、距離がある。大分歩きがいがあったろう。
 
 引っ越しの時の猫担当は、児童文学の鈴木三重吉。紙屑かごに猫を入れて、風呂敷で包んで運んだ。12月27日の年末だった。三重吉は、小便をかけられた、と伸六氏はかいている。漱石の初代猫は、三重吉に抱えられながらも、千駄木から西片町への道順を観察していたのだろうか。
 
 猫の帰巣本能というのも、興味深い。
 英国の逃亡中の山猫は、まだ捕まらず。捕獲側は、山猫の母の声を録音して流し、2歳のオス山猫が近づいてくるのを待つ作戦を開始した由。