家に帰ろうとしているのか。英国南部のプリマス郊外の動物園に到着した日に、檻から逃げ出したカルパチア山猫の2歳のオスはその後、捕獲されていない。この山猫がプリマスに連れて来られるまで住んでいた、生まれ故郷の英ケント州の野生公園に向かっているのではないか、という専門家の声があがっている。
モンゴルの有名な馬の話を思い出した。北ベトナムに連れていかれたモンゴルの馬が、長い時をかけて、モンゴルに戻ったという話を、司馬遼太郎氏がモンゴル女性のツェベクマさんから聞いて、「草原の記」に書いている。
ベトナム戦争時(1960-1975)、社会主義国だったモンゴルは、北ベトナムに援助するにも金も物資もなく、豊富な馬を送ったのだという。「ハノイでは荷運びにつかわれたらしいが、そのうちの一頭が役目を終えたあと、この草原に帰ってきたという。いや、一頭だけではなく、何頭も帰ってきた、という説もある」
想像を超える長い帰還ルート。司馬さんは
「ハノイを去って、ソンコイ川沿いの道を北にめざし、瑤族居住の山中に入ってゆく。やがて中越国境を越え、はるかに崑崙大山塊にまでつながる山地のふもとを駈けて雲南省昆明に入るのである。そのあたりまでは想像できた。/しかしそのあと、馬が世界地図をもっているわけでもなく、途中、人に道をききながらゆけるわけでもないのに、どうして故郷に帰りつけたのだろう」
とホントだろうか、と考えながら書いている。直線距離でも2000キロ以上ある。