9つの目をもった不思議な祭事用具

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 1年がかりで部屋の整理をしているが、片付かない。
 昔のモンゴル土産が出てきた。旅人のために、ゲル(テント)生活の遊牧民が、この木製の道具で、馬乳をかき混ぜ、空中に振りまいて、旅の安全を祈願するのだ―漠然とした記憶がよみがえった。
 
 本物にしては、ちゃっちいので、観光客の土産用にこしらえたものだろう。名前が知りたくて、苦労した。
「アルタイシベリア展」(1987年)のカタログに、形が良く似た、トゥバの木製祭事用具が掲載されていた。
 名称
 なにか違う。モンゴルでは、別の名前だったはずだ。手間がかかったが、ツァツァル(ЦAЦAЛ)であることが判明した。祭で酒を撒く、という動詞が、ツァツァハ(ЦAЦAX)なので、祭で酒を撒く道具として、こう命名されたのだろう。
 
 Я・ツェヴェル氏の「蒙蒙辞典」で、さらに調べると、ツァツァルは、大地に酒を捧げる、9つの目を持つ木、とあった。
 具体的な使用法がいまひとつ判然としないが、ここでも「9つの目」が出てきた。
 
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 なるほど、先の部分は、碁盤の目のような「9目」が彫られていた。モンゴル系のトゥバ人が「9つの目」で呼ぶものにも、立派な9つの目があった。
 ニスで塗られた上部の飾りばかりに目を奪われていたが、この用具の意味は、本来は、この目立たない9つの目にあったのだった。大事なのは、9つの目なのだった。
 はて、9つの目は、なにものなのだろう。9分割された世界観を意味するのだろうか。