桃の節句には、細が別の雛をかざるので、叔母の手作りの紙の小雛は、長年わすれさられている。
探しだして、わが部屋にかざった。
「雛を賣る店。
櫻の作り花。
鯛と榮螺と蛤を籃に盛りて青き笹を敷きたるが魚屋の店にあり。
赤く塗った蒲鉾も澤山竝んでゐる。
花屋が赤い桃の花を竹の筒に挿してゐた」
明治43年の町の光景は、目にも鮮やかだ。
ひな祭り用に、魚屋には、かごに笹を敷いて、タイ、サザエ、ハマグリを盛りあわせて売っている。
鯛の赤、蒲鉾の赤、桃の赤。女の子の節句に、めでたい赤が、色をそえている。