猫の展覧会で漱石の猫を見る

 松濤美術館「ねこ・猫・ネコ」展を見に行った。猫の絵や彫刻を集めた美術展、猫好き大集合の賑わいだ。
 石井鶴三の「猫」の彫刻は、怒りを全身に発散させていて微笑ましいし、岡本一平漱石先生」の猫は、前脚を伸ばした漫画のような仕草が面白い。
 漱石自身が描く黒猫の水墨画があった。モデルは漱石が飼った3代目の猫という。右を頭にして横になり、こちらを見ている。猫の後ろに、高く伸びた藜(あかざ)が描かれていた。題は「あかざと猫」。
  
 猫は牡丹と一緒によく描かれる。猫は「命」と同音なので長寿を意味し、牡丹は富貴花とよばれ、富を表すので、中国で猫と牡丹の図は好まれ、室町時代から日本でもこの画題が盛んになるのだと、パンフレットに書いてある。
  なるほど。さらに、蝶も「長」と同音で長寿を表すので画題に加わって、段々賑やかになる。
 
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                               妻沼聖天の18世紀の彫刻、猫と牡丹と蝶の3点セット
 
 漱石が選んだ「あかざ」は、いまひとつなじみが薄いが、田圃の畔などに1メートルほどすくすくと伸びる一年草。雑草扱いされるが、若葉は食用になり、茎は固く丈夫に育つので、乾かして杖に用いる。「あかざの杖」は、軽く、これを手にした老人は長生きするとされる。長寿の象徴。
 松尾芭蕉は、美濃の門人宅に招かれたとき、 
 宿りせん藜の杖になる日まで
 と、生えている藜が杖に作られる時節までも逗留したいと、挨拶句を作った。
 
 漱石は、富の象徴の牡丹の代わりに、長命の象徴のあかざを選んだのだろう。描かれたのは大正3年。修善寺での大吐血から奇跡の復帰をして4年、「こころ」を連載中だった。
 漱石の長寿の願いは叶わず、この作品の2年後、49歳で逝去した。
 
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 展覧会には我が家の猫のように尾だけ真黒な猫が多数描かれていた。与謝蕪村、原在正(下図)、千草掃雲、炭谷義雄と十作以上。絵にしやすいのだろうか、黒い尾の猫は。
 
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