とりとめのない化け猫話

 猫が老婆に化ける話が、江戸時代、各地で広がっていた。
 不思議なのは、「耳袋」に、武家が、母親を化け猫だと確信して、斬り殺してしまう話が2つ掲載されていることだ。
  奉行の根岸鎮衛が巷間に流布する不思議な話を集めたものだから、実話でないとしても、 サムライの息子は、
 1)母親が化け猫だ、と確信した段階で、
 2)母親は猫に殺されたと、連想し、
 3)即、化け猫退治を実行する、
 という行動パターンが、自然なこととされていたことになる。
 
  オオカミが赤頭巾ちゃんのお婆さんを食べて、お婆さんに成りすましたのと同じことを、猫がやっていたと信じられていたわけだ。迷信恐るべし。
 
  化け猫殺害をチェックすると。
 1)「猫の人に化けし事」=「耳袋」巻2
    ▼時=昔
    ▼人物=侍と思われる
    ▼事件内容=「酷虐」な老母が、ある時猫の姿を見せたため、「母を食いし妖猫」と斬り殺した。
    ▼事件後=死体が、猫から母親の姿に戻ったため、倅は母を殺してしまったと、切腹を決意。 知人が暫く待て、と説得。夜中になると母は古猫の死骸に変った。
    ▼結果=倅は命拾い。
 
 2)「猫人につきし事」 「耳袋」巻2
    ▼時=江戸時代
    ▼人物=江戸・駒込あたりの同心
   ▼事件内容=母が、イワシ売りを相手に、表で無理に代金をまけさせようとした。商人が拒否すると、 母は憤り、顔は猫となり耳元まで裂けた。手を振り上げた様子が恐ろしくて、イワシ売りは逃げ去った。昼寝をしていた倅は、騒ぎに表に出てみると、母が猫の姿なので、「さては我が母はかの畜生めにとられける。口惜しさよ」と、刀で斬り殺した。
    ▼事件後=死んだのは猫でなく母。イワシ売りも「猫だった」と証言したが、死体は母親のまま。
    ▼結果=倅は自害した。
 
 「耳袋」は、猫が老婆に化けたケース(1)
       猫が老婆にとりついたケース(2)
とで 全く別な結果となるので、粗忽に判断しては駄目だ、との言葉を伝えている。
 
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  猫が婆さんを食べるイメージが浮かばない。
  しいて、思い浮かべるとしたら、山猫のイメージ。宮沢賢治の「注文の多い料理店」の、怖いレストランの料理人は山猫だったはず。
 イリオモテヤマネコツシマヤマネコなどの今も離島に生息する2種のベンガルヤマネコ属や、絶滅したオオヤマネコは本州、九州に、縄文時代まで生息していたらしい。