コチャバンバ行きのバスで白亜紀まで

 高校時代の友達たちと、魚百でのむことになって、神保町にでかけたら、1時間も早くついたので、レコード店、古本ガレッジセールで買物をし、伯剌西爾珈琲で時間をつぶした。
 
 その時、永井龍男コチャバンバ行き」(72年)の初版が二束三文の扱いだったので、買って帰った。
 
イメージ 2 装丁は小磯良平だった
 
 南米ボリビアコチャバンバ行きのバスの7人の乗客が、毒の木の実を食べ笑顔で死んでいたというNHKニュースが、この小説のポイントになっている。日本にも毒の木の実はある。トリカブト、ドクセリとともに、日本三大有毒植物とされる、ドクウツギ
 
 小説にも出てくる。この辺(鎌倉)にも、毒うつぎの木は沢山あって、なかなかきれいな実ですが、みんな知っていて誰も手はつけませんからね」
 
 痙攣、呼吸困難におちいるドクウツギと異なる、笑顔のまま死をもたらすボリビアの毒の実に小説の老いた登場人物は関心をもつ。
 
 そういえば、植物学者の故前川文夫氏が、ドクウツギで、壮大な説をとなえていた。ドクウツギは、世界でも、隔離分布している珍しい植物なのだという。接した地域に分布せず、飛び飛びに分布している。日本、フィリピン、ニュージーランドと。
 
 それを前川さんは、こう解釈した。1億4550年前~6550万年前の白亜紀あたりに、ドクウツギ古い赤道=「古赤道」に沿って、生えていたためだ、と。地軸が変り、気候変動もあって、絶滅する地域がで、ドクウツギの分布が現在のようにまだらになってしまった。
 
 大雑把にいうと、ドクウツギが分布しているところが、古い赤道の周辺地帯だったというわけだ。コチャバンバボリビアにも分布している。
 
 この説によると、古い赤道は、日本―台湾―フィリピンーニュージーランドーチリーボリビアーフランスーシベリアということになる。日本とボリビアは、同じ赤道周辺で、ドクウツギが咲いているのだ。
 
 小説に出てくる、毒の実は、やはりドクウツギなのだろうか
 
 コチャバンバの毒の実を、鎌倉で死を意識する老人の、シンボルに仕立てた短編小説家の匠さは、見事だが、毒の木の実の分布から、1億年前の赤道をさぐりだす植物学者の壮大な想像力も、文学的で素晴らしい。
 (現在は、前川先生の説は、科学的に否定されているというが、スケールの大きさは今の学者はかなうまい)
 
  ++++++++++++
  1億年以上も前の話は、実感が乏しいので、
 
せめてもと、恐竜展で昔、イメージ 1
もらったモロッコの小さな化石「直角石」を取り出して、握ってみる。
 
3億5000万年前のデボン紀。実感なーし。
 ジャンボ宝くじ同様、億の単位は、我が事にあらず。