ワタリガラスとレクター博士

 
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 ネコは片足で体をかくのが普通のことだけど、空をとびながら、片足で体をかく、鳥がいるという。18世紀のギルバート・ホワイトは「セルボーン博物誌」でかいている。ホントなのだろうか。
 
高らかな鳴き声もろとも、あおむけにのけぞり、あわや地上へ落ちてしまうかと危ぶまれるような動作を、屡々くりかえす。この奇妙なしぐさに身をゆだねるときは、片足で躯をひきかいているのであり、ために重心が失われるのです
 
 空中で体をかき、地上におちそうになると、かくのをやめて、バランスを確保する。また、「彼等は、なにかこう戯れに喧嘩ごっこをやっているような恰好で、飛翔中、お互同士打ち合ったり、ぶつかりあったりして、閑暇をすごす」
 
  茶目っ気のある、興味深い鳥は、「ワタリガラス」だ。 RAVEN レイブン。きらわれ者のカラスCROWより体が大きい。 日本では、冬にわたってくる北海道でしかお目にかかれないという。
 
 
  映画になった「ハンニバル」のレクター博士が愛する楽器は、ハープシコード 最近よんだばかりの、青柳いづみこさんの「六本指のゴルトベルク」(中公文庫)に、こうあった。
 レクター博士自身も音楽家で、ハープシコード(ピアノの前身)を巧みに弾きこなす。ピアノはフェルトで巻いたハンマーで弦を叩く仕組みになっているが、ハープシコード鳥の羽ではじくので、突然ジャーンと鳴るような感じだ。博士は、その音色とタッチの感触をこよなく愛している
 
 この鳥の羽こそ、レイブン=ワタリガラスの羽軸だ。
 
 ワタリガラスがはじく音を、急にききたくなる。 今は合成樹脂がもちいられるので、古いハープシコードでないと、「鳥の音」はきくことができない。レコード棚からひっぱりだす。ユゲット・ドレイフェス演奏のバッハ「インベンションとシンフォニア」。
  楽器は、1754年、ジャン=アンリ・エムシュ製作のハープシコード、というから文句なし。
 
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  ちょうど、ホワイトがワタリガラスのとび方を、かいていた頃(1778年)の楽器ではないか。 鳥の羽の音をきくために、バッハをきくなんてのは、初めての体験。 なんだか、ワタリガラスが羽ばたいて、音をだしている、と想像してしまう。
 
  ワタリガラスは、ロンドン塔に17世紀からかわれ、今もかわれて名物になっている。 ワタリガラスがいなくなるとロンドン塔が崩れ、英国が滅びる」とチャールズ2世が予言師にいわれたのがきっかけらしい。ロンドン塔といえば、監獄や処刑場につかわれた。
 
  レクター博士がいかにも、このみそうな鳥であり、ハープシコード好きもさもありなん、 とおもえてきた。