コウライキジの方がウルサイのか

 1929年のハズルンドの「蒙古の旅」を再読しているうちに、ピーター・フレミングの「韃靼通信」(昭和15年、生活社)もきになって、本棚からさがして、よみかえしている。1935年の西域旅行は、国際紛争がはげしくなって、入境で、困難の度がましている。
 ロンドン・タイムスの特派員となったフレミングは、スイスの謎めいた女性ジャーナリスト、キニと北京から、新疆、印度をめざしてゆく。
 フレミングは、青海省ノモ・ハンタラ辺りで、猟をたのしむ。カモのほか、野兎。そして、雉。
 「ある夕方私は耳慣れた然し異様な音をきいてびつくりした。電話のベルが鳴り出しても、新聞売子が『フットボールの結果!』と叫んだとしても、これ以上仰天はしなかつたろう。・・・雄の雉が鳴いてゐるのだ。私はそうつと跡をつけて、開けた場所へ出た所を射ちとめた」
 雉は、夜明けと夕べ、餌をさがしにでてくる。西域でも同じなのだろう。夕方、集団ででて、声をあげたところ、3羽がうたれてしまった。
 キジも鳴かずば・・・、の典型的なケース!
「非常に綺麗な鳥で、P.Colchcus とは羽が少し異なる」と、フレミングはかいている。
 P.Colchicus は、phasianus colchicus コウライキジ。
 
  キジ属は、日本の国鳥のキジと、コウライキジの2つきりだ。
  キジとちがって、コウライキジには、頚に白い輪があるのが、特徴という。
  どう羽がちがっていたのか、かいてくれていたら、とおもうと残念だ。
   国鳥であるキジは、日本でもっともしたしまれてきた鳥。古来、単に「とり」といわれて通用したのは、キジとニワトリだけだったという。
  万葉の時代からうたわれた。
 庭つ鳥 鶏は鳴くなり 野つ鳥 雉はとよむ
  夜明けに、庭の鶏と野原の雉はうるさかったとみえるが、ともに、声が大きいのが、このまれたのだろうか。
  とくに、雉は数十羽、数百羽で群集する習性がある。
 春雉(きぎす)鳴く 高円の辺に 桜花 散りて流らふ 見る人もがも (1866)
 サクラの季節は、さかりの時期なので、ひときわうるさかったのではないか。
 
  便利なyou-tubeがあるので、キジ(green pheasant)と コウライキジ(pheasant)と
ききくらべると、コウライキジがワイルドにきこえ、フレミングの記述が大げさでないことがわかる。録音方法のちがいだけでなく、実際にそうなら、日本では、うるさすぎて、きらわれたかも。
  コウライキジは江戸時代に福岡・能古島で大量にかわれていたが、万葉の時代には渡来していなかった。 
 
イメージ 1 妻沼聖天のキジの彫刻(江戸中期)