古代の赤い染料を推理する

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 赤について考える。
 古代の赤の染料について、気にかかる古事記の記述がある。仁徳天皇が怒った磐姫をなだめるために、丸邇臣口子を派遣するくだりだ。
 磐姫はかたくななままだったので、口子は役目を果たせない。結局、雨の中を腰まで水溜りに浸かりながらじっとしていた。赤い胸紐が水に浸かり、着ていた「青摺りの衣」が「紅の色」に変わってしまった、それを見た妹のクチヒメが嘆いた、という箇所だ。
 口子が自決したことを、このように表現したとも考えられるが、確かなことは、 
 1)口子は赤い胸紐のついた青摺りの衣を着ていたこと。
 2)赤い紐は、水に溶ける染料だったこと。
 以上のことを前提にして話が出来ていると考えられる。
 
 赤の染料で、植物性のものは
 茜
 紅花
 蘇芳
が考えられるが、何度も何度も染めて、赤色に仕上げることから、水で赤が流れ、青色の衣を染めてしまうとは考えにくい。
 鉱物が原料の
 辰砂、
 ベンガラ
は非水溶性であることから、これも考えにくいと思う。いったい、こんな染料があるのだろうか。
 ひとつ気になるのが、正倉院に残るラックダイ。カイガラムシ科の一種ラックカイガラムシから作る染料だ。インド、ネパールのイヌナツメ、ビルマネムの葉につく虫で、コチニール同様に赤の染料となる。明礬を媒染剤に、臙脂色に発色する。この染料を固めたものが中国から入り、正倉院にあるのだった。
「紫鉱」「臙脂」ともいわれる。専門家でないので正直判らないが、後世の「生臙脂」が、臙脂を綿に染ませてから乾かし、その綿を湯に浸してから汁を絞って使用したことから類推すると、水で溶けて色が染みたということがありうるのではないか。